目次
PRPG注入治療とは、多血小板血漿(Platelet-rich plasma:以下PRP)に、医療用成長因子である(growth factors:以下GF)を添加し、皮膚や皮下に注入することで、肌に自然なボリュームをもたせ、かつ肌質を美しく再生させる治療です。
ただ、ひとくくりにPRPG注入治療といっても、ヒアルロン酸やボトックスなどの“製品が同じであれば成分も同じ”である注入用薬剤とは大きく異なります。
なぜなら、PRPの作製法やGFの配合が各医療機関で統一されていないからです。そのため、同じ部位に同じ量を注入しても、その効果やリスクの発生頻度が医療機関によって著しく異なります。
このコラムでは、PRPGの配合を決定する際に重要な事項と、それを踏まえたうえで、当院におけるPRPG治療の工夫についてご紹介します。
PRPの働き
PRPにはご自分の血液中に含まれる成長因子が多数含まれますが、その中でも血小板由来成長因子(PDGF)と呼ばれる成長因子がもっとも多く含まれています。
PDGFは主に真皮に存在する「線維芽細胞」に働きかけ、コラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンなどの美肌成分の産生を増加させます。つまり、PRPには主に美肌効果があると考えられています。
グロースファクターの働き
当院のPRP注射には、グロースファクターとしてFGF(Fibroblast Growth Factor)を採用しています。FGFは、真皮内に注入した場合は線維芽細胞に作用し、PRPと同じく美肌効果がありますが、真皮の下層にある皮下組織に注入された場合は、「脂肪幹細胞」に作用すると考えられています。
脂肪幹細胞は、名前からイメージされる脂肪組織だけではなく、肉芽組織や軟骨組織などの元になる細胞です。そのため、FGFを皮下に注入することにより、これらの自己組織によりボリュームを出すことが可能となります。
当院がフィラー治療にPRPGを使う理由
美肌効果とボリュームアップ効果を求めるが故の課題が多々あるPRPG治療ですが、当院がPRPG注入を重要治療として位置付けているには理由があります。
顔の凹みを改善したり、組織を増大させたりする注入治療は一般的に「フィラー治療」と呼ばれます。フィラー治療の代表的なものとして、ヒアルロン酸注入や脂肪注入が挙げられますが、それらの効果はあくまでボリュームアップであり、真皮のコラーゲンやヒアルロン酸などの美肌成分の産生を促す効果はありません。
いくらボリュームが増えたり凹みが改善しても、肌が美しくなければ、本当に美しくなった・若返ったと言えるでしょうか。私はそうは思いません。
“美しさ”の定義はさまざまですが、肌が美しいというのは美しさにとって非常に重要な要素であり、注入治療により美肌効果が得られるのであれば、絶対にそちらの治療のほうが優れていると考えます。このような考えに基づいて、当院ではPRPG注入治療をフィラー治療の第一選択にしています。
PRPとFGFの相乗効果
PRPが美肌効果、FGFが主にボリュームアップ効果であれば、それぞれにとって最適な濃度で混合すれば良いと思うのですが、実はそう簡単ではありません。
FGFは幅広い効果を示す多機能性のタンパク質(成長因子)であるため、FGFが直接細胞に作用するだけではなく、PRPと同時に注入されたときは、PRPに含有されるPDGFなどの成長因子の働きも高めます。
このFGFの多機能性が、自院で作製したPRPにどの程度の影響があるかを評価して配合を決める必要があります。
PRPとFGFを同時に注入することによる注意点はもう一つあります。PRPGは、注入前は粘度の低い(水のような)液体ですが、注入した直後から皮下でゼリー状に変化し、注入部位に長く留まる性質があります。
長く留まると、それだけ成長因子が細胞に長時間作用しますので、それぞれを単独で注入するよりも再生反応が高まる傾向があります。なお、この効果を「徐放作用」といます。
このようにPRPとFGFを同時に注入することにより、お互いに影響しあう性質がありますので、それぞれ単独での性質に加えて、相互反応も理解したうえで、リスクを回避しながら確実に効果がでるPRPGの配合を決定します。
6種類のPRPG
冒頭でお話したように、各医療機関によってPRPGの品質や配合が異なります。当院でも、私が2010年にPRPの研究を開始して以来、試行錯誤して参りましたが、その結果“ある配合”にたどりつきました。実はそれは1つではなく6種類あります。
「6つも?」と思われるかもしれませんが、すべての患者さまでご希望通りの効果をだそうとした結果、自然と6種類にたどりつきました。6種類に分ける理由は、この後に述べるさまざまなファクターにより、肌の再生反応が異なるため、単一の配合でご希望通りの効果をだすことが困難だからです。
再生反応を左右するファクター
①患者様固有の違い
再生反応を左右する原因のひとつに年齢が挙げられます。当院には10代から80代まで、幅広い年齢層の患者さまにご来院いただきますが、10代の方と80代の方では肌の再生反応が大きく異なります。
「若いころはケガをしてもすぐ直ったけど、年とともに治りにくくなった」と言うフレーズをお聞きになったことがあるかもしれません。
そういった傷の治りやすさの違いは皮膚の再生能力の差であり、それがそのままPRPGに対する反応の差となります。
年齢はあくまで原因の一つであり、他にも肌質や皮下脂肪の量、皮膚の伸展の程度、体型、基礎疾患、生活習慣(喫煙歴や栄養状態)など、さまざまな要因により、PRPGに対する再生反応が異なります。
②注入部位による違い
さらに、お一人お一人の固有条件よりも、実は「注入部位」のほうが再生反応の差に大きく影響します。PRP注射は、上記のイラストに示したようにさまざまな部位に適応があります。注入部位によって皮膚の厚さや皮下脂肪の量、じん帯や筋肉、骨格などの構造が違いますので、部位ごとにPRPGに対する再生反応も全く異なります。
例えば凹みの強い額に丸みをだす場合、皮下脂肪が比較的少ない部位に骨格レベルの変化をだす必要があるので、ボリュームアップ効果が高いPRPGを選択します。ふくらみすぎを恐れるあまり、効果がマイルドな種類を選択すると、ものたりないどころか効果が全くでません。
一方、目の下のクマ治療は、色素沈着や小じわの改善などの皮膚再生効果が主目的となります。
また、お目元は少しの形の変化で大きく雰囲気が変わるため、膨らみすぎやしこりを絶対にださないように、美肌効果は高く、かつボリュームアップ効果は比較的低いPRPGを選択します。
他にも、バストアップにおいては、適切な部位に注入されている限り、膨らみすぎて困ることはありませんので、最もボリュームアップ効果が高いPRPGを選択します。
このように、注入部位の解剖学的特性や治療の目的に応じて、その都度最適なPRPGを選択します。もちろん、患者さまのご希望(しっかり効果を出したいか、ナチュラルか等)なども考慮して、PRPGの種類を最終的に決定します。
当院では複数部位を同時に治療される方が多いですが、その場合ももちろん各部位でPRPGの種類を変えています。上述したような額を丸くする、クマ改善、バストアップの治療を同時に行う場合でも、それぞれの部位に適した種類のPRPGを選択します。
またそのような離れた部位だけではなく、目の下と目尻のような隣接する部位の同時治療においても、再生反応の違いを考慮して、異なるPRPGを使い分けることもあります。
同部位でも異なる層で種類を変更
同部位でも注入する層が、異なるとPRPGの種類を変えることがあります。
例えば目の下のクマの原因が、色素沈着や小ジワなどの皮膚の表面にある方は、PRPGを表面から真皮内に注入します。一方、凹みによるクマの方には、皮下組織に凹みを持ち上げるように注入します。
このように改善したい症状によって注入する層が変わってくるのですが、そういった場合も注入層によって使用するPRPGを変えています。
もちろん真皮内と皮下組織へ同時に注入する場合でも、異なるPRPGを使用します。
まだまだある再生反応の違い
ここまで、PRPGの選択に大きく影響する要因をあげました。これら以外にも2回目のPRPG注入を行う際や、過去にヒアルロン酸注射や脂肪注入などを受けた方もPRPGの種類選択に影響します。
PRP注射はオーダーメイドのPRPG注入治療
このように、適切なPRPGの見極めには多様なファクターが関わってくるため、何歳ならこの配合、この部位なこの配合、といったマニュアル化ができません。
マニュアル化ができないということは、治療を行う医師は、患者さまや注入部位による再生反応の違いと、6種類のPRPGの生理的性質や再生反応について熟知している必要があります。
また、PRPG治療の効果は非常に長いため、各PRPGで注入後どういった反応が起こり、どういった経過をたどるのかを最低3年は見通せなくてはなりません。
PRPG専門チームの重要性
人や部位ごとに濃度を変えると、治療自体が非常に複雑になりますが、それ以上に超えるべきハードルがあります。当院では1日数十名の方にPRPG治療をさせていただいております。
お一人につき何種類ものPRPGを作製するとなると、ご想像通り作製から治療までのオペレーションが非常に複雑になります。
いくら医師が熟練していても、カウンセリングから採血~注入までのプロセスで、PRPGの作製法や品質管理に間違いがあってはなりません。また、患者さまの血液を使用するという特性上、取り違えは絶対にあってはなりません。
作成過程でいかなるミスも起こらないように、PRPG治療専門のチームが、カルテの記載や部位のトリプルチェックを行います。
さらに、作製手順の厳格化や厳密な滅菌環境はもちろんのこと、作製後・注入前の再チェックなど、何重にも厳重なチェック体制を敷いています。その甲斐あって、開院以来PRPGの取り扱いに間違いが生じたことはありません。
このように優秀な専門スタッフが一丸となって治療を支えてくれているからこそ、医師は高いハードルを乗り越え患者さまの治療に集中できるのです。
まとめ
当院のPRPG治療の工夫について、お話させていただきました。当院のように6種類のPRPGを使い分けるのは、ある意味非効率ではあります。しかし「患者さまの理想を実現する」という絶対的ゴールから逆算していった結果、自然にたどり着いた結論です。
当院に所属する医師は、PRPG注入治療に熟知しています。患者さまのご希望される効果をだすには、どの種類が適切か瞬時にわかりますので、安心してご相談していただければと思います。
施術をお受けいただいた方の効果や経過にご興味がある方は、症例写真や動画もぜひご覧ください。
PRP注射を通じて、皆さまの美容に関するお悩みにお役に立てれば幸いです。
プルージュ美容クリニック
理事長 岡本 慎一 Shinichi Okamoto
資格・専門医
- 医学博士
- 日本整形外科学会 専門医
- 日本脈管学会 脈管専門医
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医
所属学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本再生医療学会
- 日本整形外科学会
- 日本静脈学会